コンピュータアーキテクト坂村 健

シンギュラリティ

人間が上にいて、その下にAIとロボットがいる社会になっていくのだと思う。AIが人間の生活を支え、AIやロボットが生産を担う時代になれば、新たな文化や芸術を生み出す第2のルネッサンスを迎えるのではないだろうか。ロボットやAIには人間のような欲望もないし、快楽を理解することはないのだから。

オープンアーキテクチュアが重要

月尾 坂村さんは高校時代からコンピュータの知識に長けておられて、大学卒業後もその方面へ進まれました。最も有名なのは、TRON(トロン)というオープンソースのOSを開発されたことです。
TRONは多言語の文字フォントを用意して対応するユニバーサルな規格を最初から追求されていました。また驚くのは、その特許を無償で公開されたことです。OSやコンピュータを社会に活かそうと考えられたきっかけや目標をお聞かせください。

坂村 TRONの仕事のなかで一番重要なのはオープンアーキテクチュアだと思います。コンピュータに出合ったときから、コンピュータには可能性があり人類社会に大きな影響を与えるものだと思っていました。だから、開発されたOSや技術を独占するのはよくないと思ったのです。当時からたくさんのコードを書いていましたが、全部公開しようと考えました。それをまた誰かが直してもっとよいものを作れば、さらに世の中はよくなる。原点はそこです。
私と同じように考える人も出てきています。例えばMIT(マサチューセッツ工科大学)にいたリチャード・ストールマン。彼は、UNIX(ユニックス)系のGNU(グヌー)やそれに関連する開発環境にまつわる仕事をした人ですが、同じような考えでした。私は機器組み込み分野のコンピュータで行い、ストールマンは情報処理分野で同じことをしたと思います。機器組み込み分野のコンピュータは表に出ないので、広く使われているわりに一般には知られていませんが、情報処理分野とはOSの構造が異なるので、このふたつの分野で、同じ時期にオープンの流れが始まったのは意義深いことだと思います。
リーナス・トーバルスのLinux(リナックス)はもう少し後から出てきたOSで、GNUのコア部分をパソコン用に書き直したものを公開したため、広く使われるようになりました。
基本的な考えは同じで、公開することによって仲間が増え、それによってさらによいものに成長していく。結局一番得するのは自分だということで、それがオープンアーキテクチュアの原点です。
TRONはThe Real-time Operating system Nucleusの訳で、もともと組み込みコンピュータです。携帯電話やデジタルカメラへの組み込みが最初でした。パソコンを作るプロジェクトではなかったのですが、すべて公開するなら、これをコアにした情報処理用OSを作り、パソコンを作ってもいいのではないかと考えました。コンピュータの世界では「小は大を兼ねる」で、組み込み用OSをコアにして情報処理システムを作れますが、逆はできないからです。

月尾 ところがパソコンは残念ながら上手く普及しませんでした。

坂村 当時の日本とアメリカの貿易不均衡の関係などもありパソコンのプロジェクトは中止されました。ただ、本来の組み込み用OSとしては60%のシェアで、デジタルカメラもプリンターも家電も、JAXAの「はやぶさ」やH2A ロケットなど日本の宇宙機器もすべてTRONですし、スマートフォンでも通信制御チップはTRONです。いわば、現在のインターネット・オブ・シングス(IoT)のさきがけの分野では成功しました。

月尾 その延長でユビキタスという概念を提唱されています。インターネットは1960年代に開発され、たかだか50~60年しか歴史がないし、初期は軍事用であまり公開されていませんでした。ところが1990年前後から公開され、それからせいぜい30年ですが、一気に世界の通信手段になっている。どうしてそれ以前の通信手段を一気に凌駕したのでしょう?

坂村 その答えは技術がオープンだからです。インターネットの通信プロトコルTCP/IP は誰が使用してもいいし、通信手順のプログラムも公開しているから、誰でもわかるし、それに従い開発すれば、誰でも接続できる。そのため爆発的に広がり、それを仕切っている人もいません。
仕切る人がいないということはTCP/IPさえ実装すれば、パソコンでもノートブックでも携帯電話でも利用できるし、国の関与もありません。インターネットもTRONと同じでお金を払う必要もない。それが一番大きかったのだと思います。なんといってもオープンがキーワードです。

月尾 オープンな通信手段でコンピュータ同士を結ぶだけでは社会は変わらなかったと思います。定額料金で使い放題にするなど料金体系が変わったことも影響していると思います。

坂村 無料の技術をベースにしているからです。高額な料金体系であればビジネスモデルとして成立しない。大企業が独占的に支配しても、それに対抗する人が出てくる。

月尾 距離にも関係しない世界均一料金になり、これも世界のあり方を大きく変えた要因です。その渦中におられてインターネットがどのように世界を変えたかについて、どう理解されていますか?

坂村 すごい速度です。民間に開放されて以降の経済的影響力や新しいものができ上がる速度は速い。何故かというと、やはりオープンにしたことで参画する人間の数が爆発的に増えたからです。クローズではとてもそんな人数は参加できない。技術的なことを理解できれば誰でも参入可能になります。
国や文化度だけで優劣が決まるわけではない。先進国の日本やアメリカでも勉強する人としない人に分かれるように、発展途上国においても優秀で勉強する人は参入します。

月尾 それは理想的な姿ですが、一方でGAFA(ガーファ)と言われるような企業(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)は、技術は独占しないけれども情報を独占している。ヨーロッパはついにたまりかねて、強引に規制し始めました。TRONにしてもLinuxにしてもオープンにする新しい世代が出て、インターネットも途中からオープンになったが、それが社会に浸透した現在、その技術を駆使して情報を独占する動きが出てきました。これを何とかしないとアメリカ帝国主義的なものが世界を支配することになります。

日本は明治時代のように他国から学べ

坂村 GAFAは、すべてアメリカから出ています。アメリカ政府ではなく、EUなど他国ともめているところが面白い(笑)。
イノベーティブなところから生まれたものだから、ヨーロッパのような保守的な人たちが多い先進国にとっては、不愉快なのだろうと感じます。
日本は中途半端です。アメリカ的ではありますが、国家体制はヨーロッパをお手本にして近代化を進めてきた。そしてアメリカともケンカできない立場にいる国です。

月尾 ヨーロッパはビジネスや技術ではアメリカに対応できないから規制という手段をとる。残念なのは、日本はそういう対抗手段もとらない。世界の上場企業の時価評価総額を並べると、上から5番まではGAFA+マイクロソフトで、次は中国のアリババ、テンセントです。日本はトヨタというモノづくりの会社が40番目ぐらいにやっと出て、情報産業はゼロです。

坂村 日本の情報産業はどんどん衰退しています。個人的には活躍している人も結構います。アメリカで成功している人もいるし、日本の中で闘っている人もいます。けれど日本を総体的に見た場合、モノづくりから情報中心の世界に移るにしたがって存在感が薄くなっているのは事実です。
日本の伝統的な考え方が現在のネット社会に適合していないからです。世界はオープンになっているのに日本はクローズです。改善や改良は好きだけどイノベーションはあまりやらない。主導権がなかなかとれず、結局、合議制で物事を決める意識が強く出すぎるという日本の欠点が出ています。系列はあるけれど、ゆるい連携でいろんな人たちと結びつくこともない。
明治時代に日本が開国したときのように世界の動きを知ることが重要です。

月尾 明治初期に先進諸国の産業革命に追い付いたのは画期的でした。ところが現在、情報革命は起こっているけれども、まったく追い付いていない。
もうひとつの問題は、本来多くの人が自由に技術を利用できるはずですが、逆にいろんな面でデジタルデバイドがはじまっていることです。例えば高齢者のなかにはデジタル社会を敬遠する人が多数いる。地域間でもデジタルデバイドが存在する。一部の企業は頑張っているけれども、依然として情報技術最先端の企業が日本に登場していない。いろいろな局面でデジタルデバイドが出現し、本来のユビキタスやユニバーサルな社会が出現していませんが、これについてはどうすればいいと思われますか?

コンピュータ教育が今後を変える

坂村 現象的にそうなっていることは事実で、ひとつは教育が重要だと思います。現在の教育はコンピュータで変わっていく現実に追い付いてない。大学の教育だけではなくて、年少の頃からの教育も重要です。世界の動向を見るとプログラミングやコンピュータの重要性を考え、小学校から必修で教えているのに、日本は2020年から始まることにはなりましたが、現状では教えていません。
受験勉強も、何十年も前と同じことをやっている。これだけコンピュータ社会になっているのに、コンピュータが入学試験に出ないのはおかしい。
文系と理系に分けるのもおかしいと思っています。文系は数学が得意じゃない人が行くという間違えた考えになっている。ビジネスの世界でも、ビッグデータなどの統計的な知識が必須の時代です。マーケティングもSNSを解析して方向を決める時代なのに、文系だから数学の知識はいらないというのはおかしい。そういうことがいくつもあります。
ビジネスの主体が情報関係に移行しているのに、それを子供の頃から教えなければついていけません。若い人たちの責任ではなくて、国の未来を考えるならば、教育を変える必要があります。
中途半端に成功したために、日本は世界を見なくなっている。文明開化を実行した明治時代には世界がどうなっているかを調べ、その先端を取り入れたのですが、現在はやっていません。
社会人のリカレント教育や生涯教育を進めることも必要です。世界がこれだけ速いスピードで変わっているから勉強しないと対応できません。大学が果たす役割もあるから、東洋大学でも一生懸命やろうとしています。

月尾 京都にあるスマートライフ研究所の考え方は、情報技術だけではなく、いろいろな意味でスマートな発想や技術を使って、社会の格差を縮めるにはどうしたらいいかを目指すことです。バックグラウンドになる情報通信技術自体に地域格差はありません。僕は北極にも南極にも行っていますがインターネットは利用できます。当然、日本の山村や農村にも格差はありません。

坂村 ネット環境は日本の90%以上をカバーしています。

高齢者にもプログラミング教育を

月尾 地域や個人の格差をなくすために情報技術を使う方法を研究所では考えていますが、社会人のリカレント教育だけでは対応できない世代も多い。

坂村 追い付けない世代はありますが、現在は高齢社会といってもみなさんお元気です。「プログラミングはボケ防止にもなるし、いいことが多いのでやってみては」と勧めたら、やりたい人たちが出てきました。ただそのためには、かつてのFORTRAN(フォートラン)やCOBOL(コボル)やBasic(ベーシック)ではなく、Python(パイソン)やJavaScript(ジャバスクリプト)に変更する必要があります。
「時間があるからやってみよう」という人も増えていて。退職した人も挑戦したらいいのではないかと思います。

月尾 80代の女性がスマートフォンのアプリを作った有名な例もあります。

坂村 結構お小遣いにもなります。

月尾 INIAD(イニアド)は今のところ若い学生を育てる場ですが、若い人だけではない教育プログラムも検討しておられるのですか?

坂村 INIADでやっているenPiT‒Pro(エンピット プロ)などは、会社にいながら学ぶ機会を増やそうというものです。大学生の数が減っていきますから、入学定員を社会人の定員に振り替えていく。それをひとつのモデルケースにしたいと思っています。2050年になると日本の人口は一億を切ると言われています。それに合わせて新入生の数も減るので、入学者数を維持するためには、リカレント教育にもっと力を入れるべきというのが私の考えです。

インターネットの悪用には重い処罰を

月尾 もうひとつ考えなければいけないのは、フェイクニュースやフィッシングなど、新たな犯罪が増えていることです。いつの時代にも新しい技術を使う犯罪はあり、絶対防げるとは言い切れません。問題なのは、被害が大きいことです。ウィルス対策ソフトを作っている会社の推計だと、情報による犯罪の損失が年間42兆円だという。これは世界の麻薬販売額と同じです。トランプ大統領の当選が象徴的ですが、操作された情報で突然権力を持つ人が登場することもある。このダークサイドに対して、社会はどう対応していくべきでしょう?

坂村 ダークサイドの出現は、技術が普及すればするほど避けがたい現象です。技術はよい人も使えば悪い人も使います。悪い人が使ったら当然悪い方向へ行く。
インターネットそのものも技術的に直したほうがいい時期に来ていると思います。インターネットはARPANETという軍事ネットワークが起源で味方だけのネットワークでした。ところが現在、インターネットには敵も味方も集まってくる。インターネットのプロトコルでも、IPv4はアドレスの容量も十分ではないし、セキュリティという点からも脆弱です。これをIPv6にしただけでもずいぶん改善されます。
ところが日本は残念なことに、最初のボタンの掛け違えから、先行したにもかかわらずIPv6への移行では世界に遅れてしまっている。セキュリティでも最新技術の導入が必要ですが、そのためには教育が必要です。パスワードを盗られて悪用されている例が多数あるのに、壁にパスワードを貼っている人も意外と多い。

月尾 今後は、フェイクニュースやフィッシングに引っかかる人を社会として守らないといけない時代です。「騙される人が悪い」とは言っていられません。

坂村 技術だけで社会が運営できるわけではなく、制度設計は非常に重要で、悪い事をしたときの処罰を重くする必要があります。フィッシングをしたら懲役50年に処すれば、対抗技術の開発より早いかもしれません(笑)。

月尾 スマートライフ研究所の趣旨からすると、デジタルデバイドも含め、新しい手段を使った生活をしていただくことを考えています。きちんとした防御をしないでいると情報犯罪の餌食になります。情報技術に慣れていない人にも新しい社会を理解してもらい、安全に生活できることを考える必要があります。

坂村 それは大事なことだと思います。インターネットに限らず、電話の振り込み詐欺だっていまだになくなっていないわけです。周囲が気を付けて見守ることも必要ですが、本人に新しい社会を理解してもらうことは重要です。

オープンの概念に乗り遅れるな

月尾 日本はとにかく情報産業社会で出遅れています。1990年にNTTがVI&Pを発表した時は25年先までの社会を構想しました。
世界中が衝撃を受け、その対策としてアメリカがインターネットを自由に使えるようにしたという背景もあります。つまり、90年頃は日本が世界の先頭に立っていたのに、現在は完全に出遅れです。国別情報競争力では日本は26番です。アジアでも、シンガポール、香港がベスト10に入り、韓国も台湾も日本より上位という状態になっている。この状況を変えていかないと日本の国力は落ち、後進国になる可能性がある。

坂村 日本は実情を身近に感じていない人が多い。韓国を見ると、国内経済がガタガタだから外に出て物を売る。そうすると、ほかの国がどうなっているか勉強しなければいけないわけです。日本はそういう意味で中途半端な状態で、経済力は下がっているけれどもなんとかなっている。国内に1億人以上の人間が住んでいるから一応の購買力もあり、危機感がない。
重要な問題は、オープンという考えに乗り遅れていることです。日本のメーカーがビデオカメラで世界一位のシェアを持っていた時期もありましたが、現在はアメリカのゴープロ(GoPro)が伸びています。ゴープロは最初からオープン戦略でネットに接続し、ほかの人が作ったアプリケーションも公開した。それに対して日本のビデオメーカーの多くは、クローズドにして自社のアプリケーションからしかコントロールできないようにした。

月尾 工業社会は特許で技術を守ってきたけれど、情報社会は特許のようにクローズドではないオープンな社会を作る必要があります。

坂村 オープンと言っても特許はいまだにある。ただ、そのとり方が変わってきている。日本は売れない特許ばかりとって、肝心な部分の知的所有権を無視している。ある程度守るものとオープンにするものの線引きの感覚をつかまないと、世界を相手にするビジネスにはなりません。

月尾 日本が発明してオープンにして大成功したのはQRコードです。

坂村 大成功です。

月尾 デンソーが作り、最初からオープンにして、現在では世界の決済手段になっています。デンソーは、利益は得なかったもしれないけれど名誉を得ました。

坂村 利益も得ています。QRコードを世界で一番使っていたのはトヨタ自動車ですから(笑)。公開するまではQRコードの読み取り装置が高かった。そこでトヨタ自動車がデンソーに「なぜQRコードの読み取り装置は高いのか」と聞いたら、「特許で守られているから」と答えたそうです。ところが、その後オープンになり、一番使っているトヨタグループは利益を得た。つまり、オープンにしても利益は得られます。オープンは「情けは他人の為ならず」なんです。

新たなルネッサンス時代が到来する

月尾 さらに先の大きな問題は、レイ・カーツワイルが言った「シンギュラリティ」です。あと何十年かすれば、1台のスーパーコンピュータが全人類の能力に匹敵する。囲碁や将棋どころか、人間が延々と築いてきた能力がコンピュータに置き換えられてしまう。この社会で我々はどう生きていけばいいでしょうか?  能力がある人はそういう分野で挑戦すればいいけれど、そうでない人は何を目指したらいいのでしょう?

坂村 その問題に関しては、人類はもう経験しています。例えばローマ時代や中世では、貴族と平民の格差は現在以上にありました。下層の人たちは不幸だったし、奴隷もいた。上層の人たちは人生を謳歌して、働かなくても生活できた。そんな時代だったからこそ芸術が生まれ文化が発展したわけです。 これから同じような状況になっていくだろうけれど、この時代がいいのは、下層はロボットとAIということです。人間はみな貴族階級になるとも言えます。

月尾 逆ではないですか?

坂村 私は上層が人間で、下層がAIとロボットだと思っています。人間の生活を支えてくれる便利なものができる時代になると思っています。
生産はロボットやAIがしてくれるのだから、第二のルネッサンスを迎えるかもしれません。そもそもロボットやAIには快楽は理解できない。快楽も欲求もないから、彼らが何かのために人間を支配する説には賛同できません。
美術館や博物館に残っているかつての作品を見て、いまだに「素晴らしい」と言う。私も美術館・博物館の仕事を経験していますが、現代の作品よりも過去の作品のほうが完成されていると思う。大量の人間に喜びを与える芸術作品が生まれているわけです。貴族側が増えればアートなど芸術は盛り上がります。上層にいる人間が新しい発想を思い付いて、すべての芸術分野はさらに発展します。

月尾 理想的な方向へ進めばいいけれど、最近の芸術も本当にクリエイティブかどうかわかりません。「ゴッホ風の絵を描け」と言うと描くソフトができています。「この写真を油絵にしてみろ」と言うと、それを巧みにアレンジする技術もある。そうすると、人間のクリエイティビティや独創性は大丈夫かと思う。

坂村 大丈夫じゃないですか? SFには、未来社会を考える作品が多い。人間は、やることがなくなると「尊敬されることをやる人が偉い」ことになる。お金儲けは必要なくなるから。本当にいいことをした人に尊敬が集まって社会の上層になる。だから自分勝手で気配りがないと貧乏人になるが、食べられないわけではない。
 演奏でも講演でも、多くの人から「いい」と言ってもらうことに、みんな喜びを感じるようになる。「尊敬されることをしよう」と誰もが思えば平和になっていく。限られた資源を取り合うこともなく、戦争が減る。これはSFですが、私は好きです(笑)。

月尾 しかし中国などは、極度な監視社会です。

坂村 それはまだ資源が十分ではなく、貴族が少ない社会だからだと思います。しかし、 食べるものと着るものと住むところが十分あれば「あとは何のために生きるか」が重要な課題になる。今後は、ロボットやAIに働いてもらい、人間が働かなくても生きていける時代を目指したい。社会がよくなることに貢献したいと考えています。

月尾 坂村さんはたくさんの若い人を育て発言力もある。ぜひ、ディストピアにならない方向へ導いていただきたい。どうもありがとうございました。

  • 『インターネット・
    オブ・シングス(IoT)』

    「身の回りのあらゆるモノがインターネットに繋がる」仕組みを指す。例えばテレビやエアコンがインターネットに繋がることにより、モノが相互通信し、遠隔からも認識や計測、制御などが可能となる。「モノのインターネット」とも呼ばれ、P&Gのマーケッティング担当で、1990年代末にマサチューセッツ工科大学のAutoIDセンターにもいたケビン・アシュトン氏の命名。

  • 『Linux』

    1990年代に、フィンランドのリーヌス・トーバルズ氏が開発した無料のOS(オペレーションシステム)。TRONと同じくネットワークを利用し、世界中の技術者と情報を共有し共同開発する「オープンソース」の思想により短期間で急速に一般化した。現在も改良が重ねられ、多くの大企業や政府、自治体でも使用されている。

  • 『TRON』

    TRONとは The Real-time Operating system Nucleusの略。TRONプロジェクトはあらゆるコンピュータを統一的に研究・開発し、わかりやすいコンピュータ社会の実現を目指して1984 年に発足。カメラや携帯電話などの情報家電から、自動車のエンジン制御といった産業分野まで、さまざまな組み込みシステムに世界中で利用されている。

  • 『Python、JavaScript』

    コンパイラーによる機械語への変換をせずに直接実行でき、習得が比較的容易なスクリプト言語と呼ばれる系統のプログラミング言語。Pythonは「AI関係の機能モジュールが揃っている」、JavaScriptは「Webブラウザで実行できる」という特長を持ち、近年の人気プログラミング言語ランキングでも上位を争う。

  • 『FORTRAN、COBOL、Basic』

    初期の高級言語(コンピュータにさせたい処理を人間に近い言語で表現するできるプログラミング言語)。FORTRANは1956年、COBOLは1959年、Basicは1964年に開発された。より高度なプログラミング手法が使える後進の高級言語に押され、今では一般的に使われる機会は減少しつつある。

  • 『ユビキタス』

    あらゆるものにコンピュータが内蔵され、いつでも、どこでもコンピュータの支援が得られるような世界や概念。1990年代初頭からアメリカで研究され始めた。ユビキタス・コンピューティングとも言う。ラテン語が語源で、「いたるところに遍在する」という意味。日本では、総務省を中心に産学官で2001年から調査・検討を開始した。

  • 『シンギュラリティ』

    人工知能(AI)が自己進化しその進化速度が幾何級数的になる転換点(技術的特異点)。または、それがもたらす世界の変化のこと。AIの世界的権威であるレイ・カーツワイルが自著のなかで、「2045年に、テクノロジーの進化のスピードが無限大になるシンギュラリティが到来する」と述べたことから広まった。

  • 『IPv4、IPv6』

    インターネットで広く利用される、通信上の規格(プロトコル)。インターネット人口が急激に増え、IPv4では供給できるIPアドレス(インターネット上の各コンピューターに割り当てられる識別番号)に限界があるため、実用上は無限といっていいほど大量のIPアドレスを設定できる次世代のプロトコルとしてIPv6が注目されている。

  • 『INIAD』

    2017年4月に開設された東洋大学情報連携学部の通称。坂村氏が学部長を務める。IoT時代に活躍できる人材育成を目指し、赤羽キャンパスにはプロユースの加工機械などが用意されている。学生たちはプログラミングを学習し、キャンパス内のIoTデバイスを自由にコントロールして実習を行い、「文芸理融合」の教育を受ける。