セブン&アイ・ホールディングス社長井阪隆一

流通ビジネスがもたらすスマートライフ

時代の変化に対応した多様な流通サービスを創造してきたセブン&アイ・ホールディングスは、働く女性の増加や少子高齢化等を背景とする社会ニーズの変化や、地球規模の環境問題等、さまざまな課題に対して、ESGの視点を経営と事業活動に組み入れ、社会課題解決によるスマート社会の実現と企業価値向上の両立を目指している。

月尾 井阪社長は、1980年に大学を卒業されて、セブンーイレブン・ジャパンに入社されました。80年代は日本も世界も発展しているときでした。今でこそセブンーイレブンは5兆円企業になっていますが、当時は失礼ながら、それほど知られていませんでした。その会社を選ばれた理由をお聞かせください。

井阪 就職活動をしていた頃、家の近所にたまたまセブンーイレブンができました。その頃は、夜8時を過ぎると街はほとんど灯りが消えて、開いている店はなかった。それが夜遅くまで煌々と灯りをつけて、しかも当時としては斬新なデザインの看板でした。ある日、店を覗いてみると、バラエティに飛んだ楽しい商品が並んでいて、すぐ食べられる食品も多かったので興味を持ちました。
もうひとつは、就職情報を見ていたところ、フランチャイズシステムという新しい経営手法を採用していることを知りました。各店舗と本社の役割分担を明確にして生産性を上げる仕組みで、商品構成も楽しいし、これは今後、効率のよいビジネスモデルとして成長するのではないかと思い選んだ次第です。

月尾 大変な先見性がおありです。80年の入社のときから努力してこられ、2009年に社長になられました。
80年には1000億円くらいの売上でしたが、現在では5兆円の会社になり、店舗数も1000店くらいだったのが、2万店を突破しました。
流通業にはいろいろな分野がありますが、特にコンビニエンスストア事業は桁違いに躍進しました。もちろん大変な努力をされたということもありますが、社会的な背景もあったと思います。どういう背景でコンビニエンスストア事業がこれだけ発展したのでしょうか。

時代のニーズに応じた開発で成長を遂げる

井阪 時代の変化に応じていろいろな商品やサービスを開発、提供し続けたことが、成長の一番大きなバッググラウンドになっていると思います。
例えばサービスのひとつでいいますと、宅配便をいち早く店頭で扱いました。また東京電力さんが最初でしたが、収納代行業務も始めました。銀行のATMも2001年から店内に設置するなど、小売店で扱っていないサービスをどんどん導入してきました。
もうひとつは時代やお客様のニーズが変化していくなかで、それに合わせた商品開発ができてきたことが、成長し続けた理由だと思っております。

月尾 例えば代表的な商品はセブンプレミアムです。コンビニは安い商品をたくさん売っている場所というのが一般のイメージでしたが、高級な食パンやハンバーグなどを並べヒット商品を作られた。

井阪 お客様のニーズの変化で言いますと、やはり食の安全安心へのニーズが非常に高まってきました。できるだけ添加物を使わないで、原材料から一元的に管理ができるようなサプライチェーンの仕組みのなかでモノづくりをすることも、かなり早くから手掛け、それがお客様の琴線に触れ、喜んでいただけたひとつの要素かと思います。

月尾 長年セブンーイレブンを育ててこられ、2年前に100社以上を統括するホールディングスの社長になられました。感心したのは3カ月間猛勉強され、「100日プラン」という全体構想を出されました。「100日プラン」で何を目指されたのでしょうか?

井阪 非常に大きな企業グループですから、いろいろな業態があり、いろいろな価値観を持った社員がいます。どういう方向で一緒にビジネスをやっていくかをできるだけ早く示したいと思ったのです。突然、社長就任が決まりましたので、大型店のこともわかりませんし、外食のこともあまり勉強できていませんでした。そこで90日の時間をいただいて、目指すべき方向を全社員と共有できるようにと議論を重ねた結果、「100日プラン」と言われる中期経営計画になりました。
どこにゴール設定をするかとか、定量的な数字のゴール目標も必要ですが、どういう業種業態で成長戦略を考え構造改革をしないといけないか、そしてどういう方向感で構造改革していくのか。そういったことを、それぞれの事業会社の方々に理解してもらいたいという想いを強く持って作りました。

「近くて便利」なコンビニを目指して

月尾 もうひとつ、井阪社長になられて全体が開放的な組織になったと思いますが。このあたりも意識して改革されたのでしょうか?

井阪 はい。セブンーイレブン・ジャパンの社長になった2009年、セブンーイレブン・ジャパン自体の業績は低迷しておりました。2008年はタスポというタバコの年齢認証の仕組みが入って自販機で簡単にタバコが買えなくなり、お客様がコンビニに流れましたが、それを除くと7年連続前年割れという状況でした。そのときに社長になり、これからの社会、これからの時代にセブンーイレブンは何ができるかを、徹底的に議論しました。いろいろな人が、いろいろな意見を言ってくれ、それによって我々の存在意義を改めて再定義することができたのです。
そのときに生まれたキャッチフレーズが「近くて便利」です。働く女性が増える、高齢化社会になる、遠くまで買物に行けない、そういう環境で生活する人が増えてくる。そのときに私たちができることはまだまだあるのではないかということです。
今まで売ってきたものが本当にその商品構成でよかったのか、もっと商品構成の幅を広げないといけないのではないかなど議論して生まれたキャッチフレーズでした。それを実践し始めたら、数字はどんどん変わり、その後、既存店売上前年比62カ月連続クリアということになりました。

月尾 62カ月というと5年以上ですか。

井阪 5年以上です。お客様にも確かに我々のメッセージが届いたという手応えを感じました。その経験がありましたので、この方向感でいけると思ったらいろいろな意見を取り入れようと決心しました。あるいは半信半疑であってもトライ&エラーで実験をしてみて、その結果を納得しながら前に進めたいと考えました。
月尾先生にも取締役に入っていただきましたが、さまざまな知見を持っておられる社外の方々から教えていただく機会を作りたいと思いました。
個々が個性をPRしながら、自由闊達にコミュニケーションできるような会社。それが、業績に対してもポジティブな結果を与えてくれると思い、努めてそうしてきたつもりです。

月尾 本当に一変したというか、がらりと素晴らしい雰囲気に変わりました。

井阪 ありがとうございます。

月尾 現在でも中心はやはりコンビニエンスストア事業ですが、社会の大きな変化もあります。例えばドラッグストアが急速に侵入してきました。銀行がATMを維持できず撤退したことで、長期的に収益を上げてきたセブン銀行も、ATMだけでやっていけるかということも課題になってきた。会社の経営の仕方に関係なく、社会環境が急激に変化し、これまでの方向で進めるかという問題が出てきました。そのあたりは「100日プラン」のなかにも織り込み済みかと思いますが、環境が変わったことに対してどのように打開していこうと思っておられますか?

店舗改装とリモデルで一新

井阪 お客様のニーズの変化、これは世帯人数の減少による影響が大きい。以前は普通の世帯はお父さん、お母さん、お子さん二人という世帯が多かったのですが、現在は二人以下の世帯が全体の62%を占めます。5000万世帯のうちの大半がそういう生活です。食事や生活スタイルもかなり変わってきています。それに対応し続けていけば、絶対伸びていけると思っています。コンビニエンスストアにおいては大胆な店舗レイアウトの変更をいたしました。これも1年近く試行錯誤をしながら模索したもので、最近ようやく手応えがつかめはじめました。約2000店でレイアウト変更を手がけましたが、確実に数字は変わってきています。
ドラッグストアは確かに薬の利益が大きいため、食品の利益率や価格を下げられるという強い業態ではありますが、すぐ食べられかつ安全安心な食品となると、これはサプライチェーンを育んできた我々のほうに一日の長があります。食品がメインで、セールスカウンターでファストフードを売り、壁面のオープンケースでチルドの惣菜やカット野菜を売る。あるいは冷凍食品もメーカーさんと共同開発しながら売り場を広げて対応する。これがおそらく5年先10年先のお客様のニーズにも十分応えられるやり方だろうと決断し展開しています。
年間で約1500店ぐらいのリモデルをやっていくわけですが、全部転換するには10年ぐらいはかかります。テスト結果やお客様の反応から、10年はこの方向で通用すると踏み出しました。
またATMについても、口座を持っていなくても現金が引き出せるような新しい機能をセブン銀行に開発してもらいました。 CtoCのビジネスが始まるなかでどのように現金を受け取るのかという新しいタッチポイントとして定着させたいと思っております。

月尾  ふたつの大きな柱と言いますか、アメリカのセブンーイレブン・インク(7-Eleven, Inc.)も入れれば、三つの柱が収益をあげていけるわけです。
一方ホールディングス全体の傘下には大小100ぐらいの業種があります。イトーヨーカドーのように衣料を提供できる業態や、ロフトのように日用雑貨も提供できる店舗、私たちの日常生活を支える業種が全て傘下にあります。それを統合して、「生活の面倒をすべて任せろ」ということがうまくいけばいいのですが。最初にそれをネットで連結させようとされましたが十分に機能しませんでした。けれど生活のあらゆる面をカバーできることをうまく活かせば、もう一段階、二本足や三本足ではないビジネスが始まると思うのですが、このあたりの戦略についてお聞かせください。

ID管理をすればネット対応も

井阪 おっしゃるように今のお客様の生活にはインターネットがかなり浸透しています。お買い物をインターネットでする時代になってまいりました。
ただ最初に取り組んだ領域がeコマースという、私どもが一番苦手な領域でした。ネットとリアルの融合を図ろうとしましたが、ロングテールの商品を、しかも在庫リスクを抱えながらやるビジネスモデルでは、私どもの強さを活かせないだろうと、何年間かやって気付きました。毎日お店でお買い物をして頂くお客様は2300万人いらっしゃいますが、このお客様との関係性をどうやって強く深くしていくかということに軸足を置いたデジタル戦略を進めるべきではないかと考えています。
そういう意味では、お客様のIDを共通IDとして各事業会社でシェアさせていただき、お客様にとってわずらわしくなく、本当に便利だと感じていただけるような情報やインセンティブをひとつのIDを通じてご提供できればと考えています。
例えば「赤ちゃん本舗」という会社があります。日本の新生児の数は年間で94万人まで減ってしまいました。ところが「赤ちゃん本舗」は94万人の新生児のお母様の60万人以上を会員として毎年獲得しています。それら新生児が3歳になると「赤ちゃん本舗」では、お買い物をする商品がなくなりますので離脱します。しかし、その赤ちゃんが小学校に入学するときにIDをいただいていれば、ランドセルの情報をご両親にご提供したり、入学式に着ていく洋服の情報をそごう・西武の商品からお薦めしたりと、お客様のライフステージに合わせてご提案ができるのではないかと考えています。
これはアマゾンや楽天など既存のeコマースではなかなかできないサービスではないかと感じています。我々の持っている専門性の強さ、メーカーさんとの商品開発力の強さ、こういったものを活かしながらグループ連携ができればと、今年の6月からお客様のID戦略を「セブンID」という名前で始めたところです。

アスクルとの提携で商品が素早く100%届く配達に

月尾 もうひとつ話題になったのが、アスクルと提携されたことです。配達して届けるということでは近いビジネスですが、分野がまったく違っています。この狙いはどういうところにありますか?

井阪 イトーヨーカドーが日本で最初にネットスーパーを始めました。これはお客様にとって便利で、お店に行かなくても生鮮食品が届くというサービスです。ただし大きな問題点がありました。お客様が商品を欲しい時間は常にひとつの時間帯に集中します。すると配送車が出払ってしまうことになり、「注文しても届かない」、「届けられない」という状況が発生してしまいます。
アスクルさんと組んだのは、アスクルさんは運ぶ会社でありサイト運営もやられていることが大きな要因です。私どもはアスクルさんのインフラを活用し、イトーヨーカドーの商品が100%届くことを目指す。現在は文京区と新宿区でしか展開できていませんが、注文した商品が間違いなく100%届く環境を作ったら何が起きるのだろうと考え、その実験をやっています。一度注文されたお客様のリピート率が80%と、信じられないような数字が出ています。利用されたお客様に便利さやサービスの質にも信頼を寄せて使い続けていただく現象が出てきました。
今後はさらに、買い物に行けない、時間がないお客様が増えてきます。そのようなお客様に、こちらから商品をお届けするサービスを新しい仕組みとして作っていきたいと考え、アスクルさんと提携をしました。

未来型コンパクトスーパーの実現へ向けて

月尾 井阪社長との会議で印象に残っているのは、都心部での未来型コンパクトスーパーの検討です。一定の地域や年代層では買い物難民が何十万人おり、これを解決していくのがひとつの使命だと言われ、なるほどと思いました。アマゾンは客を選んで、そこに売ればいいという利益本位な考え方です。
井阪社長が考えられるコンビニエンスストアを中核としたサービスは、社会で困っている人や格差で苦労している人をバックアップしていこうという思想です。それは非常に大事だと思いますが、そのあたりの戦略についてどうお考えになりますか?

井阪 私の両親は二人とも80代後半で、二人で元気に生活していますが、私も時々一緒に食卓を囲みます。そんなとき、彼らの冷蔵庫のなかを見ると寂しくなります。買い物に行く頻度も野菜や肉魚を毎日調理するエネルギーもだんだん減ってきているのでしょう。
そういう家庭に対して、近くで新鮮なものを買える我々の店が、これからの時代になくてはならない存在になれるのではないかと思うのです。そこに「お届け」という機能が加われば、さらにお客様に喜んでいただけます。我々の存在意義・価値が上がっていくのではないかということです。社員や加盟店の意欲も上がって、三方よしになる。これからの時代には、そのような機能が世のなかにあるべきだと思い、アプローチしています。

月尾 スマートライフ研究所は、社会のなかで現在の体制ではなかなかサービスを受けられない方々をどのように地域ごとに生活できるようにしていくかを目的にしています。
そういう意味では買い物難民にどう対応していかれるかは、非常に関心がありますし、参考になると思っています。
最後に、最近新聞の2ページを丸々使った広告を出されましたが、SDGsに本格的に向かって行かれる意欲を感じました。SDGsは国連が言い出したことですが、利益を上げるだけではなく、社会を維持しない限り、企業も成り立たないということです。
コンビニエンスストアはブラック企業などと言われて槍玉に挙げられ、従業員を酷使していると言われた時期がありました。井阪社長になられてから組織をオープンにすることも含めて変えておられます。さらに、大きな転換として、流通業界で率先してSDGsに取り組む姿勢を表明しておられます。なぜ、このような方向を目指そうと思われたのかをおうかがしたい。

SDGsをテーマに世界へ進出

井阪 ひとつには、企業の存在目的はゴーイングコンサーン(going concern)と昔から言われています。継続・存続することが存在目的だということです。なぜかといえは、多くのステークホルダーが企業活動に関わり、それによって生活されている。だから絶対に企業を継続して維持して行かなければならない。 もうひとつは、買い物をしていただくお客様、そこで働いている加盟店、あるいは我々の社員にも共感していただかないと続いていかない。
社会課題の解決といった社会価値と企業価値の両立を実現しないと評価や共感をいただけないと考えました。そうであればSDGsはユニバーサルかつ、2030年までに実現しなければいけないグローバルな開発目標ですから、それを目標にすることで、お客様や社員の共感を形成していき、それと我々の事業計画を同調させようと考えました。

月尾 もう一点それに関連して、セブンーイレブンはアメリカにも中国にも東南アジアにも、そして北欧にもあります。我々はついつい国内だけを見るので、日本の大きなコンビニエンスストアというイメージがありますが、グローバルに急速に拡大しておられます。これからのグローバル戦略はどうお考えか、そしてSDGsとの関係をどのように見ておられるかをご紹介ください。

井阪 SDGsをテーマとして掲げながらいろんな国へ進出していくと、その国で共感をいただけます。もちろん現在展開している既存の地域・国に対しても、その国民、あるいはその国の消費者から共感をいただけると思います。ですからグローバルな成長においても、ユニバーサルなゴールとして共感を掲げるのは非常に有用だと思っています。

月尾 もともとアメリカでスタートしたビジネスを日本流にして、逆に現在は世界に出ておられ、日本の文化や感性が、世界全体で評価されている。外国の人が日本へ来ると「ぜひ日本で働きたい」と思われる人が多いそうです。最近は日本で働きたいと年間およそ2万人の韓国の学生が就職試験を受ける。日本語習得熱も高いそうです。
アングロサクソン流の「勝てば正義」という経営から、日本流のお互いを労うことや弱者もすくい上げる文化がこれからの世界で重要ではないかと思います。
最初はアメリカ流のビジネスでしたが、それを日本文化とミックスした新しいビジネスに転換し、それを持って世界へ出ていこうとしておられる。それについてお考えをお聞かせください。

  • 『100日プラン』

    2016年5月に社長に就任した井阪氏が、約100日をかけて経営課題を洗いだし、公表した中期(3ヵ年)経営計画。成長事業である日米コンビニエンスストア事業の強化、GMS(総合スーパー)・百貨店の構造改革推進、オムニチャネル戦略の転換など、多岐にわたるグループ内の見直しと改革を発表した。

  • 『セブンプレミアム』

    2007年に誕生したプライベートブランド。価格より価値、品質を重視して、安全・安心な商品を提供する。グループ会社の商品部が技術力のあるメーカーとチームを組んで開発。今では食品、生活雑貨、衣料品など、アイテム数は3,900以上に及び、1兆3,000億円を超える売上高をほこる。

  • 『フランチャイズシステム』

    加盟店が事業本部と契約を結び、商標、商品、経営ノウハウ、技術サポート等を得ることができる。加盟店はその対価としてロイヤリティを本部に払うという仕組み。世界初のフランチャイズは、アメリカのケンタッキーフライドチキンと言われている。日本では1960年代に不二家やダスキンが開始した。

  • 『新聞の2ページを
    丸々使った広告』

    2018年3月27日の日経新聞朝刊全30段のカラー広告で、セブン&アイ・ホールディングスのESGへの取り組みをイラストや写真をもちいて公開した。本業を通じて社会課題を解決する総合的なメッセージを示すために作成し、グループの目指すESGを消費者に目で見て理解してもらうことを目指した。掲載後は、取引先から「本気度が伝わった」など好意的な反響が相次いだ。

  • 『eコマース』

    インターネット上で行われる商品やサービスに関する取り引き・決済を指す。実店舗を構えて商品を販売する従来の商取り引きと比べて、維持コストが少ないというメリットがある。国内では、1997年にサービスを開始した楽天とアメリカのアマゾンが業界最大手として競い合っている。

  • 『CtoC』

    Consumer to Consumerの略。一般消費者同士がインターネット上で契約や決済を行い、モノやサービスを売り買いする個人間取引を意味する。インターネット・オークションや中古品売買、民泊などでよく利用されている。矢野経済研究所によると、2016 年度の日本国内のCtoCにおける市場規模は推計で6568億円。2017 年度には1.5倍の9950億円に急伸すると見ている。

画一性から多様性へ

井阪 世界は先生が言われている「画一性から多様性」という価値観に変遷していると思います。自由闊達な土壌のなかで、海外からの留学生や日本で就職した人たちも、新しい価値観に対してものを言い、個性を出せる。そんな企業風土を作りながら正しい価値観を醸成できる企業になる。それが将来の成長に繋がっていると信じております。

月尾 最近コンビニへ行って気が付くのは、レジのスタッフは東南アジアをはじめ外国の人が多いことです。そして日本風のサービスをしておられる。その育成があるから、彼らが日本の文化やよさを多くの国へ伝えるメッセンジャーになる。そういう視点で日本独自の文化を反映したビジネスを作っていただきたいと思います。

井阪 ありがとうございます。アメリカの文化は業態論です。「コンビニエンスストアとは、こういう商品構成でこういうサービスを売るところだ」と決めている。GMS(総合スーパー)もそうでした。しかし日本はスクラップ&ビルドが次々とできる国土はありませんので、一回作った店の中身を変えていきながら時代の変化に対応していく。それが日本流だと思います。
日本のよさと「画一性から多様性」が一体となり、自分の主張や個性を生かしながら意見を言えることが多様性の礎だと思います。
私が好きな言葉で、経営にも反映させたいと考えているのが、松尾芭蕉が『奥の細道』の旅をしながら見出した理念と言われる「不易流行」です。
俳句の制作には、時代とともに変化しない基礎(不易)を学ぶとともに、時代の変化(流行)を導入しなければいけないという意味で芭蕉が作り出した理念ですが、経営についても重要な理念だと思います。
私流の解釈ですが、社会に何を提供するかという基本理念とともに、変化していく社会の要望に敏感に対応しなければ企業は永続しないという意味だと理解しています。
現在の流通社会は新しいテクノロジーや多様な決済手段の登場、海外企業の参入など、これまでとは比較できないスピードで変化が発生しています。それに対応することは当然ですが、社会を構成する一人ひとりが期待するサービスを提供することが基本だと思います。
その両方に迅速に対応できる会社にしていきたいと考えています。

月尾 日本は古代は大陸の流行、近代は西欧の流行を積極的に取り入れてきましたが、それにもかかわらず社会の基本や個人の精神は不変の根底を維持してきました。まさに不易流行です。この精神で激動する時代に対応されることを期待しております。