工学博士月尾嘉男

明日へのExpect

 

心豊かな社会への道しるべ

月尾 日本テレネットはそれぞれの時代の最新の情報通信技術を使って社会にサービスを提供される企業です。
今回新たに「スマートライフ研究所」を立ち上げられたきっかけや何を目指しておられるのかをお話しください。

 1985年に事業をスタートしました。この年は、まさに通信事業のディレギュレーション「通信自由化」が行われた年でした。したがって、民間で通信事業をどのようにやっていけるか、さらには通信に付加価値をのせ、どういうサービスができるかを目指してまいりました。
スピードやファストという目的合理主義的な価値観でやってまいりましたが、ほんとうにそれで人間が幸せになったのかと思うようになりました。確かに経済的には豊かになりましたが、情報通信の世界は問題もあります。メンタルヘルスの不調を訴える従業員の比率は他業種より多いという調査結果もでています。仕事に充足感や満足感を得られない人が多いからでしょう。業務のIT化やアウトソーシングなどもあって、従業員は業務の一部分だけを担当するから、全体の流れを理解できないうえ、最後までやりとげる達成感がない。流れ作業の一部をやらされている感覚になっている。
業務は分業化され合理的になり生産性は上がりますが、結果、人間性が否定されることに繋がっている。今の「働き方改革」では、人間を労働者というよりもひとつの機能として捉える一方で、個人生活を重視する雇用制度が増えてきました。日本的経営の良い面が、企業社会や運命共同体的組織になり、企業コミュニティは崩壊しつつあります。新たなビジョンや社会システムが見えなくなっている日本社会を担っていく人達はたいへんです。
「人間にとって何が幸せなのか」「心豊かに生きるには」というビジョンを、今後、スマートライフ研究所はきちんと示していきたい。研究から新たな発見をすることが発足の理由のひとつです。

   

月尾 筑紫哲也さんなどが提唱されていた「スローライフ」の延長線というか研究を背景にしてお考えになったということですか?

   

 はい。ファスト、スピードなどが重視され、地域の商店街はどんどんシャッター街になっていきました。はたしてそれは住民や地域の経済にとっていいことなのか。
首都圏集中の問題もそうです。地方の親が教育費をだして子供を東京の大学へ行かせ、卒業後は、大企業が労働力として雇用する。結果、人材を首都圏にもっていかれる。つまり地方は東京のために投資をしているわけで、その構図は地方を疲弊させているのではないか。これが最初に私が疑問に思ったことです。
地域から吸い上げた資源を、もう一度地域に返す必要があるだろうと思います。企業経営はソーシャルキャピタルです。我々は地域の資源や原材料を使わせていただいているわけですから、それに対して還元す るのが正しい姿ではないかと。
筑紫さんがよくおっしゃったのは、「地域のもっている伝統文化などの社会資源を再発見しよう」ということでした。東京から地方の現場へ行って、自分たちの目で見て地域がもっている大切なモノを再発見し、新たな価値に進化させていこうと運動してきました。

月尾 瀧会長は実業家ですから、単に情報を集め発信するだけではなくて、具体的に社会に働きかけていかれることを期待します。

 以前、「PHP研究所」で学識者などを集めて年に2回「京都座会」をやっておられました。社会への課題やビジョンを提言されていたのです。今はその座会がなくなったこともあり、弊社がそのかわりになにかできないかと考えました。社会に対して提言していくメディアを目指そうと思っています。

月尾 幸之助さんが座会を作られた頃は、情報は従来のマスメディアでなければ伝わらなかった。ところが今はSNSをはじめ違うメディアが大変な影響力をもつようになっています。社会に影響を及ぼす新しい発信手法についてもお考えになっていますか。

 当然、発信手段はインターネットです。一方で、先生方に講演会やフォーラムなどを行っていただきたい。若い人たちに「明日への伝言」的なメッセージ、「ここに課題があります」「これが進化します」と言っていただき、それをタイムリーに発信していく。

月尾 「今は明治以来の大転換期」だと多くの識者が言われている。「スマートライフ研究所」では、その大転換期をいい方向に後押しできることをやっていければと思います。

 どうぞお力添えお願いいたします。